ちょっと待った!は通用しない 〜神保良介Blog〜

役者・神保良介の出演情報やその他諸々。

2010年11月

Hamlet

公演が終わって、ひま〜な時間が増えたので、何か(お金のかからない)面白いことはないかしらん、と考えて、そうだ、ハムレットの七つの独白を覚えてみよう! と思いつきました。
ま、自主稽古みたいなものですね。

何となくそう思い立った背景には、例えば英国(米国も?)の舞台俳優ならハムレットの独白くらい諳んじられるぞ、という勝手なイメージがあったから(いや実際は知りませんが国語の授業でやるくらいだからそうなんじゃないかと)。
それと、先の公演でやった演技とは何か対極のことをしたいなと思ったからでした。気分転換に。

てなわけで、一日に独白ひとつを目安にして、松岡和子さん訳の台詞をうちで一人ぶつぶつ、いや、わーわーとやって、ちょうど一週間で覚えました。
喋っていて面白いのは(という括りも変ですが)、第一独白、そしてやはり"To be, or not to be"の第四独白でした。

これ、やってみたら結構楽しくていい訓練にもなったので、次は『リチャード三世』の冒頭の台詞や『お気に召すまま』のジェイクイズの有名な台詞なんかをやろうか、なんて思ってます(どちらも以前出演した作品だから覚えてた気がするんだけど忘れちゃった)。
一人でやるならモノローグの方がいいね。

そういえば、日本の作品で諳んじられて当然、みたいな名台詞ってそんなに思いつかない。
以前に壤晴彦さんのレッスンを受けた時、『勧進帳』の弁慶の「それつらつらおもんみれば」から始まる長台詞を覚えましたが、やっぱり歌舞伎など伝統芸能の作品になるんでしょうか。

『外郎売』の「拙者親方と申すは」で始まる口上は、発声・滑舌の訓練のために覚えている役者(アナウンサーも)が多いみたいですが、神保は覚えてません。やってみようかな。
あとは寅さんの啖呵売とかも言えたら楽しいかも。

ちなみに日本の作品で僕が諳んじられるのは、『近代能楽集』の「弱法師」の長台詞。
なぜかというと、ニナガワカンパニー・ダッシュのオーディションの課題だったから。
散々稽古したので10年経ったいまも覚えてます。
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↑ 開演前に衣裳や髪型を確認する和田真季乃さん(左)と福田温子さん。

てがみ座『乱歩の恋文』がとても良いカンパニーだったことはこのブログでも何度か触れました。
キャスト、スタッフの一人一人について書きたいところですが、すごく長くなる予感がするので自粛。
総じて言えることは、皆さんどなたも個性(アク)が強くて、しかもチャーミング。
なおかつチームワークが良くて、仕事をきっちりこなす方たちでした。

思い起こせば、カンパニーの中の、ボケの人とツッコミの人とのバランスも良い具合にとれていたと思います(これ、結構大事なことです)。
毎日、何かしらで大笑いするような瞬間が現場に(少なくとも自分には)訪れていました。

お客さんからは、キャスティングが絶妙だったという感想もあったようです。
配役は、稽古初日の顔合わせで作者の長田育恵さんから発表されたものから変わることはありませんでした。
この作品での、まさに適役適所だったのでしょう。

そういえば、稽古の初めのころ、僕の平井通役の演技を見た作者に、「硬派な役者さんのイメージがあったからこういう(だらしなくてコミカルな)役を演ってるのが意外!」と感心されて、ちょっと嬉しかった記憶があります。
でも考えてみれば、「自分で配役しておいて、意外なの?」とも思うのですが。

そういえば、稽古場最終日に記念写真を撮りました。
いろんな現場を経験してますが、稽古場で、特に祝い事でもないのに集合写真を撮るのは初めてのことでした。
そうさせてしまう良い空気が流れていたのでしょう。みんな楽しそうにフレームに納まっていました。
その写真を見ると、誰か一人でも欠けたら、あれほどいい芝居にはならなかっただろうと改めて思います。

そんな我々でしたから、千穐楽の最終ステージの前の忙しい最中、舞台上で記念写真を撮ったことは言うまでもありません。

この作品を通じて生まれた、数々の素敵な出会いに心から感謝。

大入り袋&サントラ
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↑ 杉山至+鴉屋さんによる舞台美術。王子小劇場にこれだけのものが! という驚きの声が多かったようです。

てがみ座『乱歩の恋文』、今回は作品との出会いなんかについて書こっかなと思います。

今年1月のてがみ座『光る河』を観て、第2回公演にして作品のハイクオリティぶりに唸りました。
その後、長田育恵さん(てがみ座主宰・劇作家)に、神保が主演した『怒りを込めてふりかえれ』を観て頂き、今回の出演が決まりました。
その時に「人間・江戸川乱歩を描く作品」という作品の構想を教えてもらいました。

『光る河』とリーディング公演『カシオペア』から、何となく長田さんの作風のイメージみたいなものが自分の中にあったので、『乱歩の恋文』でも、緻密で繊細に紡がれた会話劇を予想していたのですが、台本を読んで驚きました。

劇中劇によって物語が進行していく流れになっていて、演劇的な仕掛けやケレンがあって、時間や場所があっちこっちに飛び、大胆で妖しく、猥雑さや下世話な要素も含んでいて、自分の勝手な先入観は跡形もなく吹き飛ばされました。
そして何故かは分かりませんが、「猥雑さと下世話は自分の役割だ」と勝手に決意したのでした。

現場には、作品づくりへのとてもよい空気が流れていました。
扇田拓也さんの演出が戯曲を豊かに立ち上げて舵取りをする中、役者が血を通わせ、更に美術、照明、音響、衣装のスタッフさん方が作品世界を濃密で深遠なところへ導いていく。
もちろんどんな舞台作品でも同じプロセスを辿るのですが、今作ではこの戯曲に魅せられた全てのパートの力が結集した、その相乗効果が凄かったのだと思います。

ランプ
大野洋平さん制作のランプ。明かりを点けると綺麗。

本作を通して江戸川乱歩という人物と、その周囲の人たちのことを深く知ることができたのも大切な財産です。
ところで、終演後に劇場ロビーで販売していた本作の上演台本は、用意していた部数すべて完売したそうです!

台本を初読した時、一体この物語はどこへ向うのだろうと思いながら読み進めていました。
ラストシーンに到った時、ここに辿り着くための様々なシーンの積み重ねだったのだなあとハッとしました。
本番に入っても、モニターから聞こえてくる、恋文を受け取った隆と隆子のやりとりに毎回しっかり耳を傾けていました。
その度に、なんて素敵なラストだろうと思っていました。
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終演後舞台

てがみ座『乱歩の恋文』は全13ステージの公演を終えることが出来ました!
ご来場、応援くださった皆様、ありがとうございました。
作品も座組みも素晴らしくて、気持ちよく打ち上げをしました。

書きたいことはいろいろありますが、まずは、自分の演じた役のことを。

江戸川乱歩とその妻、隆子を描いた本作、事実を基に巧みに創作されているので、劇中には実在した人物や固有名詞がたくさん出てきました。
そういった事柄にお詳しい人には、更に楽しめるところが多かったのではないかと思います。

僕が演じた三役も、皆、実在した人物でした。
うち二役は、傀儡(くぐつ)芝居の劇中劇で、傀儡がそれらの役を演じる、という設定でした。

雑誌「新青年」四代目の編集長、水谷準は、ミステリー作家としても活躍した人物。実は若い頃に江戸川乱歩名義で作品を書いたりもしています(乱歩はそういった形で若い作家に執筆の場を与えていたようです)。

傀儡が演じる乱歩の長弟、平井通は、後に「平井蒼太」など複数の筆名で作家として活躍しました。ミステリーの他、豆本や性風俗関係の著作を残しています。

これまた傀儡演じる戸塚町会長は……どんな人物だったのかは皆目検討つきませんが、きっと実在はしたことでしょう。

今回、早替えをしなければならなかったり、本番中の楽屋が人と衣裳や小道具でごった返したりしていたこともあって、残念ながらそれぞれの役の写真は撮れませんでしたが、水谷はこんな↓感じの風貌でした。
水谷準

ひとつの作品の中で、それぞれタイプの異なる、独立した複数の人間を演じるのは楽しいです。
自分がお客さんだった場合、登場する度に分かりやすく差異が出た方が観ていて面白いだろうな、と考えて、外見、動作、声色などで遊んでみました。

平井通役では初めての関西弁での芝居で、方言指導の方にイントネーションはもちろん、感情を込めるポイント(標準語とはだいぶ異なることに驚きました)など、丁寧に教えて頂きました(それでも「う〜ん?」て感じだったのでしょうけど)。
関西弁で、笑えるようなやりとりにしなければならないという、ハードルの高いことに挑戦させてもらえました。

自分にとってシリアスな役柄は、どちらかというと読める手なんですが、コミカルはそうでもなく、稽古中も公演が始まってからも、発見の連続でした。
悲劇より喜劇の演技の方が難しい、なんて言われていたりしますが、「やっぱりそうなのかもなあ」てなことを感じた今回の三役でした。
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てがみ座『乱歩の恋文』、好評をいただいて、ありがたいことに沢山のお客様にお越しいただき、公演を続けてまいりました。
もうひと踏ん張りです。

今回、言ってみればコミカルなパートをやっていまして、改めて芝居は生物(なまもの)だということを噛みしめています。
ベースの芝居は変わりませんが、お客さんの反応如何で更に違う景色が見られる楽しさがあります。

さて、そんな本公演も、いよいよ10日に千穐楽を迎えます!

ぶっちゃけて言ってしまえば、これだけクオリティが高くて、お客様の反応が良くて、カンパニーとしても素晴らしい公演は滅多にない、そんな何年に一度巡り合うか合わないかの芝居です。

10日17時開演の回が、時間帯の特殊性もあってかかなり空きのある状態です。
お時間ありましたらぜひ、王子へお越し下さい!
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